▼ 心深く優しき長 ▼

ココへ来てもう何日になるのだろうか?
自分で言うのも何だが、
私はそこそこに名が売れ多忙な日々を送るジャーナリストだ。
久しぶりに休暇が取れたかと思うと、こんな事に巻き込まれるとは…
何てついてないんだ!
でも幸いにも旅行先に向かうセスナ機が小さな村の側に落ち、
唯一の生存者である私だけが助けられた。

最初は驚いたよ。
目の前にいる綺麗な女の人が村の長だなんてな。
しかも男のいない女だけの村。
ハッキリ言って『女だけで何が出来るんだ』って、
小馬鹿にするような冷ややかな感情さえ浮かんできた。

村の人達とコミュニケーションや会話を重ねて行くうちに、
彼女の生き様が少しずつだが分かってきた。
長になったその日から『女』という『性』を捨て、
男でさえキツくて辛い試練をも受けて来たという事も。

僕は彼女と2人になれた今、さり気なく聞いてみた。
「どうして長になんてなりたかったのか?なぜ?」

すると彼女は細く微笑みながらこう答えた。

「私はミナには女としての幸せをつかんで欲しいと思っている。
 そして島の皆や、この生まれ育った土地の全てを
 誰よりも強く愛しく感じている。
 ただ、それを守りたいがために私はココにいる…」

その言葉の1つ1つに、透き通る水のような純粋さと
深くて広い海のような重みを感じた。

そしてさり気なく見つめた彼女の背景に
彼女が慈しむ島の光景が重なって見えたような気がした。

・・・・
-心深く優しき長-
(2007.10.15)


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